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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)202号 判決 1998年3月12日

東京都渋谷区大山町1番23号

原告

株式会社三宅デザイン事務所

同代表者代表取締役

小室知子

同訴訟代理人弁理士

松原伸之

村木清司

西山善章

愛知県名古屋市千種区星が丘元町2番20号

被告

株式会社ルルド

同代表者代表取締役

鈴木民男

同訴訟代理人弁理士

長谷照一

大庭咲夫

鈴木隆盛

同弁護士

高橋譲二

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成7年審判第704号事件について平成7年7月12日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、発明の名称を「プリーツ製品の加工方法」とする特許第1869964号発明(平成元年4月7日出願、平成4年4月21日出願公告、平成6年年9月6日設定登録。以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。

被告は、平成6年12月27日本件特許を無効とすることについて審判を請求をし、特許庁は、この請求を平成7年審判第704号事件として審理した結果、平成7年7月12日「特許第1869964号発明の特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年7月30日原告に送達された。

2  本件発明の要旨

布地をパーツに裁断し、パーツを縫製して所望の外形に成形した後、パーツを折り込んだままプリーツ加工を全体的に施してなるプリーツ製品の加工方法。

3  審決の理由の要点

(1)  本件発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  これに対して、請求人(被告)は、本件発明は、本件出願前に頒布された甲第3号証(本訴における書証番号。以下、同じ。)記載の発明と同一、又は同発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、特許法29条1項又は2項の規定により特許を受けることができない発明に該当するので、本件特許は同法123条1項1号により無効とすべきであると主張し、証拠方法として甲第3号証(特公昭56-9561号公報)及び「広辞苑」(第二版526頁及び1717頁)を提出している。

(3)  甲第3号証には、

その特許請求の範囲に、

「生地から袖と身頃を一体に裁断してブラウスを縫製し、このブラウスの袖を身頃の中に折込み、これにプリーツ加工を行って袖と身頃にそれぞれ異方向のプリーツを施すことを特徴とするブラウスのプリーツ加工方法」

が記載されており、

明細書中には、この発明は、

「プリーツを施した衣料品の改良された製造方法に係るもので、生地を所定の形と寸法に裁断して縫製し、この縫製品を折曲げてこれにプリーツ加工を行ったのち、前記折曲げ部分を

開くことを特徴とする」

ものであることが記載され(2欄2行ないし6行)、

また、特許請求の範囲に記載されたブラウスのほかにスカートについても、

「スカートの仕上がり寸法を想定して生地を裁断し、・・・縫製して・・・さらに折りたたんで・・・プリーツ加工し」のように例示し(2欄29行ないし35行)、半袖ブラウス、スカートについての製造のフローシートであるとする図面に折りたたんだブラウス、スカートに全体的にプリーツ加工を施すことをも示したうえで、

「以上述べた半袖ブラウス、スカートのほか、長袖ブラウス、半袖および長袖ワンピース、ポロシャツなどの各種衣料品にもこの発明を適用することができる」旨を開示し(3欄6行ないし9行)、

この発明によれば、

「裁断の省力化、プリーツ加工の品質と能率の向上、縫製の省力化およびファッション化に寄与する」

ことができる(4欄4行ないし6行)としている。

(4)  本件発明と甲第3号証に記載された発明とを対比すると、甲第3号証に記載された「生地」が本件発明の「布地」に相当することは前記広辞苑の記載を参照するまでもなく明らかであり、甲第3号証に記載された「袖を身頃の中に折込み」は、本件発明の「パーツを折り込んだまま」に相当するものと認められ、さらに、甲第3号証にはプリーツ加工を施す製品としてブラウスのみならずスカート、ポロシャツなどの各種衣料品が示されていることから、甲第3号証には本件発明と同じ「プリーツ製品の加工法」に係る発明が記載されているものと認めることができる。

そこで、再び本件発明と甲第3号証に記載された発明との対比、検討に戻ると、

本件発明と甲第3号証に記載された発明とは、裁断された布地を縫製して所望の外形に成形した後、パーツを折込んだままプリーツ加工を全体的に施してなるプリーツ製品の加工方法である

点で一致しており、

本件発明が布地をパーツに裁断し、パーツを縫製して所望の外形に成形するのに対し、甲第3号証に記載された発明は袖と身頃を一体に裁断して、脇、衿口、袖口、裾等を縫製している

点で一応の相違がある。

(5)  さらに、上記相違点について検討すると、本件発明において「パーツに裁断し」とは、たとえばTシャツの場合、「前身頃と後身頃の2つ」に裁断することであり、ブラウスの場合、「左右の袖、左右の前身頃、左右の後身頃」に裁断することであり、スカートの場合、「扇形に裁断した1枚のパーツ」とすることであることからすれば、プリーツ製品を得るための布地を所定の形状に裁断することを意味しているものと解されるので、甲第3号証に記載された袖と身頃を一体に裁断することもまた本件発明でいう「パーツに裁断し」の概念に含まれるものとするのが相当であり、これを縫製により所望の外形に成形している点で両者に実質的な差異はないことになる。

(6)  したがって、本件発明は甲第3号証に記載された発明と同一であって、特許法29条1項3号の規定に違反して特記されたものであるから、同法123条1項1号の規定に該当し、これを無効とすべきものである。

4  審決の認否

審決の理由の要点(1)ないし(3)は認める。

同(4)のうち、「甲第3号証に記載された「袖を身頃の中に折込み」は、本件発明の「パーツを折り込んだまま」に相当するものと認められ、さらに、甲第3号証にはプリーツ加工を施す製品としてブラウスのみならずスカート、ポロシャツなどの各種衣料が示されていることから、甲第3号証には本件発明と同じ「プリーツ製品の加工法」に係る発明が記載されているものと認めることができる」こと、並びに、「本件発明と甲第3号証に記載された発明とは、裁断された布地を縫製して所望の外形に成形した後、パーツを折込んだままプリーツ加工を全体的に施してなるプリーツ製品の加工方法である点で一致して」いることは争い、その余は認める。

同(5)、(6)は争う。

5  審決を取り消すべき事由

審決は、甲第3号証に記載された発明の認定を誤ったため一致点の認定を誤り、本件発明の認定を誤ったため相違点についての判断を誤った結果、本件発明と甲第3号証に記載された発明とは同一であると誤った結論に至ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(一致点の認定の誤り)

審決は、「甲第3号証に記載された「袖を身頃の中に折込み」は、本件発明の「パーツを折り込んだまま」に相当するものと認められ」と認定し、さらに、「甲第3号証にはプリーツ加工を施す製品としてブラウスのみならずスカート、ポロシャツなどの各種衣料が示されていることから、甲第3号証には本件発明と同じ「プリーツ製品の加工法」に係る発明が記載されているものと認めることができる」と認定して、「本件発明と甲第3号証に記載された発明とは、裁断された布地を縫製して所望の外形に成形した後、パーツを折込んだままプリーツ加工を全体的に施してなるプリーツ製品の加工方法である点で一致して」いると認定するが、誤りである。

<1> 甲第3号証に記載された発明においては、アタリ、テカリを最小限に抑えるため、袖を身頃の中に折込むのである。

したがって、甲第3号証に記載された発明において、袖を身頃の中に折込むことは、技術常識(甲第4、第5号証)からして必須のことであり、本件発明の「パーツを折り込んだまま」とは、異なる技術思想に基づくものである。

<2> 甲第3号証に記載された発明は、甲第3号証の特許請求の範囲に記載された発明であり、

(A-1)生地から袖と身頃を一体に裁断してブラウスを縫製し、

(A-2)このブラウスの袖を身頃の中に折込み、

(A-3)これにプリーツ加工を行って袖と身頃にそれぞれ異方向のプリーツを施すことを要件とし、

(B-1)裁断の省力化、

(B-2)プリーツ加工品質と能率の向上、

(B-3)縫製の省力化、

(B-4)ファッション化に寄与すること

を効果とするものである。

甲第3号証第2図のスカートに係る発明には、(A-1)生地から袖と身頃を一体に裁断してブラウスを縫製し、(A-3)これにプリーツ加工を行って袖と身頃にそれぞれ異方向のプリーツ加工を施すことに相当する構成はなく、かつ、(B-1)裁断の省力化の効果もなく、甲第3号証に記載された発明とは、別の発明である。

したがって、甲第3号証に記載された発明は、スカートやポロシャツ等のプリーツ製品を含むものではない。

(2)  取消事由2(相違点についての判断の誤り)

審決は、甲第3号証に記載された袖と身頃を一体に裁断することもまた本件発明でいう「パーツに裁断し」の概念に含まれものとするのが相当であり、これを縫製により所望の外形に成形している点で両者に実質的な差異はない」(甲第1号証7頁2行ないし6行)と判断するが、誤りである。

本件発明においては、必要なパーツに裁断し、縫製することが必須の要件である。

本件明細書(甲第2号証)第1図(Tシャツ)は、前身頃及び後身頃の2つのパーツで本件発明を説明する実施例であるが、「縫製上の制約を受けないため、自由なデザインが可能となる」(同4欄12行、13行及び6欄22行、23行)と記載されていることから明らかなように、前身頃と後身頃に裁断することは、本件発明の説明のための簡単化にすぎない。甲第2号証第2図(ブラウス)の場合も、同様である。

他方、甲第3号証に記載された発明においては、その目的からみて、袖と身頃を一体に裁断することが、必須の要件である。

そして、袖と身頃を一体に裁断することは、本件発明においては、必須の要件ではなく、逆に有害ですらある。

したがって、甲第3号証に記載された発明における「袖と身頃を一体に裁断」は、本件発明における「パーツに裁断し」とは異なる要件である。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  認否

請求の原因1ないし3は認め、同5は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

<1> 甲第3号証には、「プリーツを施す方向に応じ袖3を身頃5の中に折込んでクリスタルプリーツ機6に入れて衿2、袖3、身頃5の全てにプリーツ加工する。プリーツ機から出たものの袖を引出すと、Cに示すように袖3と身頃5にそれぞれ異った方向にプリーツ加工された半袖プラウス7が得られる。」(2欄15行ないし20行)と記載されている。

この記載によれば、「袖を身頃の中に折込み」とは、袖と身頃に、それぞれ異なった方向にプリーツ加工を施すため、プリーツを施す方向に応じて袖を身頃の中に折込むことを意味する。

他方、本件明細書(甲第2号証)には、「右袖を含む向って右部分14Rを、一点鎖線で示す折り目線16に沿って、表に折り込むとともに、左部分14Lを裏に折りこむ。」(3欄33行ないし35行)、「左右の前身頃22FL、22FR、後身頃22Bの下部の左右端、左右の袖21R、21Lを折り込み線26に沿って、前身頃、後身頃の間に折り込む(第2図B参照)。ここで、前身頃22F、後身頃22Bの間でなく、表および裏に折り込んでもよい。」(5欄14行ないし19行)、「スカート地の一部32aを表および裏から内側にそれぞれ折り込み(第3図参照)、」(5欄27行ないし29行)、及び、「適当に折り込んでからプリーツ加工が行なえるため、折り込み形状を変えることによって同一外形のもとでも、視覚的効果の異なるバリエーションに富むデザインが可能となる。また、同一柄の布地においても、柄の異なるかのような製品がデザインできる。そして、折り目線に沿って対称にプリーツ加工の施された一種独特の美的印象が生じる。このように、この発明によれば、付加価値の高いプリーツ製品が容易に得られる。」(6欄23行ないし32行)と記載されているが、これらの記載によれば、本件発明における「パーツを折り込んだまま」は、同一外形のもとでも、視覚的効果の異なるバリエーションに富むデザインを可能にし、また、同一柄の布地においても、柄の異なるかのような製品をデザインできるように、「プリーツ加工前に、左右の前身頃、後身頃、左右の袖等の部分を折り込み線に沿って折り込む」ことを意味する。

したがって、「甲第3号証に記載された「袖を身頃の中に折込み」は、本件発明の「パーツを折り込んだまま」に相当するものと認められ」るとした審決の認定に誤りはない。

<2> 甲第3号証には、「この発明は、プリーツを施した衣料品の改良された製造法に係るもので、生地を所定の形と寸法に裁断して縫製し、この縫製品を折曲げてこれにプリーツ加工を行ったのち、前記折曲げ部分を開くことを特徴とするものである。」(2欄2行ないし6行)と、課題解決手段が記載されているから、甲第3号証において、甲第3号証に記載された発明として認定されるべき発明を、特許請求の範囲の発明の「ブラウスのプリーツ加工法」に限定する必然性はない。

したがって、「甲第3号証には本件発明と同じ「プリーツ製品の加工法」に係る発明が記載されているものと認めることができる」とした審決の認定に誤りはない。

(2)  取消事由2について

甲第3号証には、「先ずAに示すように、生地を二つ折にして仕上がりを想定した所定の形状と寸法に脇1、衿2、袖3、裾4を切断して袖3と身頃5が一体となった生地を裁断し、脇、衿口、袖口および裾を縫製する。」(2欄10行ないし14行)と記載されている。この記載によれば、「袖と身頃を一体に裁断し」は、プリーツ加工する前に、「完成した衣服の形状を想定して生地を袖と身頃とを一体にして裁断した衣服のパーツを形成する」ことを意味するということができる。

他方、本件発明においては、プリーツ加工前に、必要なパーツを布地から裁断した後、パーツを縫製するものである。

したがって、「甲第3号証に記載された袖と身頃を一体に裁断することもまた本件発明でいう「パーツに裁断し」の概念に含まれるものとするのが相当であり、これを縫製により所望の外形に成形している点で両者に実質的な差異はない」との審決の判断に誤りはない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立は、いずれも当事者間に争いがない(甲第1号証については原本の存在も)。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

そして、審決の理由の要点(1)ないし(3)は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  本件発明について

甲第2号証によれば、本件明細書には、[産業上の利用分野]、[発明が解決しようとする課題]、[課題を解決するための手段]、[実施例]、[発明の効果]として、次のように記載されていることが認められる。

<1>  [産業上の利用分野]

「この発明は、プリーツ加工の施されたスカート、ワンピース、ブラウス、スラックス等のプリーツ製品の加工方法に関する。」(1欄8行ないし10行)

<2>  [発明が解決しようとする課題]

「従来の加工方法では、パーツ化された布地にプリーツ加工を施した後、縫製してプリーツ製品に仕上げている。ここで・・・布地にプリーツ加工を施した後、プリーツ付布地をパーツに裁断し、その後、縫製することもある。この場合でも、プリーツ加工の後、縫製を行うことに変わりはない。・・・プリーツ加工されて重ねられた折り目が、平坦な原形に戻ろうとする復元性を持つため、折り目を押さえつつ縫製しなければならず、縫製が迅速に行なえない。また、布地の重なった折り目を縫製するため、同時に縫製される布地が多くならざるを得ず、ミシンによる縫製が困難となる。そして、このような縫製上の制約から、デザインも制限される。さらに、プリーツ加工によって、柔軟性が布地に加えられたにも拘らず、折り目の上端、または、下端が縫製されるため、折り目の上下端において、柔軟性が損なわれ、プリーツ製品の利点が十分に生かされない。この発明は、縫製上の制約を受けることなくデザインできるとともに、柔軟性を損なうことのないプリーツ製品の加工方法の提供を目的としている。」(2欄9行ないし3欄11行)

<3>  [課題を解決するための手段]

「この目的を達成するために、この発明によれば、縫製前でなく、縫製後にプリーツ加工を施すこととしている。つまり、この発明の一実施例によれば、布地をパーツに裁断し、パーツを縫製して所望の外形に成形した後、パーツを折り込んだままプリーツ加工を全体的に施して、プリーツ製品を加工している。」(3欄13行ないし19行)

<4>  [実施例]

「この発明の加工方法によれば、まず、布地がパーツに裁断される。たとえば、第1図(別紙1参照)に示すようなT-シャツ・・・10について、この発明による加工方法を例示する。複雑化を避けるためにパーツを前身頃、後身頃の2つと仮定すると、これらのパーツ12F、12Bが、まず、布地から裁断され、パーツの縁をミシンで縫製して、第1図Aに示す所望の外形に成形する。その後、すぐにプリーツ加工してもよいが、実施例では、両袖を折り込んだ後、プリーツ加工をしている。つまり、右袖を含む向って右部分14Rを、一点鎖線で示す折り目線16に沿って、表に折り込むとともに、左部分14Lを裏に折りこむ。すると、T-シャツ10は、第1図Bに示す形状となる。それから、T-シャツ10をプリーツ機械にかけ、好みのプリーツ加工を施す。実施例では、第1図Cに示すように、垂直な方向に折り目を形成するプリーツ加工を行なって、プリーツ製品を仕上げている。表、または、裏に折り込まれていた右部分14R、左部分14Lを、その後、展開すると、第1図Dに示すようなT-シャツ10が得られる。」(3欄23行ないし44行)

「さらに、プリーツ付スカート30の加工例を第3図(別紙1参照)に示すと、扇形に裁断した一枚のパーツ(スカート地)32の上下の縁を内側に折り返して縫製するとともに、左右の縁を縫製して、連結して、外形を成形する(第3図A参照)。それから、スカート地の一部32aを表および裏から内側にそれぞれ折り込み(第3図B参照)、第3図Cに示すように、プリーツをバイアスに施す。すると、第3図Dに示すようなデザインにプリーツの施されたスカート30が得られる。」(5欄23行ないし32行)

<5>  [発明の効果]

「上記のように、この発明に係るプリーツ製品の加工方法によれば、プリーツ加工前に、パーツを縫製しているため、布地の復元力を考慮する必要がなく、折り目を押えながら縫製しなくてよい。

そのため、縫製が迅速に行なえる。また、プリーツ加工前であるため、同時に縫製する布地の枚数も少なく、ミシンによる縫製が困難なく行なえる。

さらに、縫製後にプリーツ加工しているため、プリーツ加工の特色である柔軟性が縫製によって損なわれる虞れはない。

そして、縫製上の制約を受けないため、自由なデザインが可能となる。特に、適当に折り込んでからプリーツ加工が行なえるため、折り込み形状を変えることによって同一外形のもとでも、視覚的効果の異なるバリエーションに富むデザインが可能となる。また、同一柄の布地においても、柄の異なるかのような製品がデザインできる。そして、折り目線に沿って対称にプリーツ加工の施された一種独特の美的印象が生じる。このように、この発明によれば、付加価値の高いプリーツ製品が容易に得られる。

また、縫製後のプリーツ加工であるため、プリーツ工程が簡単化されるとともに、プリーツ加工時間が短縮され、プリーツ加工費が低減される。そして、この発明では、高付加の製品が得られるにも拘らず、生産費用は減少され、良品が安価に提供できる。

さらに、展開前においては、プリーツ方向が一定であるため、プリーツに沿った折り畳みがごく自然に行なえる。そして、この折り込みは、しわを生じることがなく行なえ、かつ、コンパクトに折り畳められるため、収納、持ち運びが容易で、ノーアイロンのプリーツ製品が得られる。

たとえ、着用によってプリーツ製品の柔軟性が損なわれても、プリーツ加工を再度施すことによって、柔軟性に富むプリーツ製品が容易に復元できる。」(6欄9行ないし4頁7欄4行)

(2)  甲第3号証に記載された発明

甲第3号証によれば、同号証には、技術分野、従来技術、技術課題・目的、解決手段、効果について、次のように記載されていることが認められる(一部の記載は当事者間に争いがない。)。

<1>  技術分野

「この発明はプリーツとくに立体的なプリーツを施した衣料品を製造する方法の改良に関する。」(1欄23行、24行)

<2>  従来技術

「従来、プリーツを施した衣料品を作る場合は、平らな面に予めプリーツ加工した生地を所定の形状および寸法に裁断し、この裁断生地を縫製する方法が採られていた。また、たとえば袖および身頃にクリスタルプリーツを施した半袖ブラウスを作る場合には、袖と身頃の形に裁断した平らな生地をプリーツ加工し、これを用いて縫製されている。」(1欄25行ないし32行)

<3>  技術課題(目的)

「しかし、このような方法では、袖用に小さく裁断した布地をプリーツ加工機に挿入して所定の方向にプリーツ加工する場合に、裁断生地が小さいために手間がかかり、かつ生地が曲って入ったり、プリーツの曲がりなどに細心の注意を払わなければならず、またファッションを考慮に入れて袖を身頃に縫製するにも手間を要する。」(1欄32行ないし2欄1行)

<4>  解決手段

「この発明は、プリーツを施した衣料品の改良された製造法に係るもので、生地を所定の形と寸法に裁断して縫製し、この縫製品を折曲げてこれにプリーツ加工を行ったのち、前記折曲げ部分を開くことを特徴とするものである。」(2欄2行ないし6行)

<5>  実施例

「第1図(別紙2参照)は、この発明により袖と身頃にクリスタルプリーツを施した半袖ブラウスを作る場合のフロシートを例示したもので、先ずAに示すように、生地を二つ折りにして仕上がりを想定した所定の形状と寸法に脇1、衿2、袖3、裾4を切断して袖3と身頃5が一体となった生地を裁断し、脇、衿口、袖口および裾を縫製する。次にこれをBに示すように、プリーツを施す方向に応じ袖3を身頃5の中に折込んでクリスタルプリーツ機6に入れて衿2、袖3、身頃5のすべてにプリーツ加工する。プリーツ機から出たものの袖を引出すと、Cに示すように袖3と身頃5にそれぞれ異った方向にプリーツ加工された半袖ブラウス7が得られる。」(2欄8行ないし20行)

<6>  効果

「この発明によれば、上述したように、裁断の省力化、プリーツ加工の品質と能率の向上、縫製の省力化およびファッション化に寄与することができ、とくに縫製および裁断の省力化に著しい効果が期待できる。」(4欄4行ないし8行)

(3)  取消事由1について

<1>  本件発明と甲第3号証に記載された発明とを対比すると、甲第3号証に記載された「生地」が本件発明の「布地」に相当することは、当事者間に争いがない。

<2>  甲第3号証に記載された発明を甲第3号証の特許請求の範囲に記載された発明であると解したとしても、前記(2)に説示の事実によれば、甲第3号証に記載された発明における「ブラウスの袖を身頃の中に折込み」は、袖と身頃に異なる方向のプリーツを施すために、肩部に設定した折込み線に沿って、袖部を前身頃と後身頃の間に折込むことを意味すると認められる。原告提出の甲第5及び第6号証も、上記認定を左右するものではない。

他方、前記(1)に説示の事実によれば、本件発明における「パーツを折り込んだまま」は、袖と身頃に異なる方向のプリーツを施したり、身頃の左右で異なる方向のプリーツを施す等視覚的効果の異なるバリエーションに富むデザインを行うために、パーツを縫製して成形したものを折込み線に沿って縫製品の中に折込むか、又は縫製品の表及び裏に折曲げて畳んだ状態を意味すると認められる。

原告は、甲第3号証に記載された発明においては、アタリ、テカリを最小限に抑えるため、袖を身頃の中に折込むのであり、したがって、甲第3号証に記載された発明において袖を身頃の中に折込むことは技術常識からして必須のことであり、本件発明の「パーツを折り込んだまま」とは異なる技術思想に基づくものである旨主張するが、原告のこの点の主張は、上記に説示したところに照らし採用できない。

そうすると、「甲第3号証に記載された「袖を身頃の中に折込み」は、本件発明の「パーツを折り込んだまま」に相当するものと認められ」るとの審決の認定に誤りはないと認められる。

<3>  そして、本件発明は、前記(1)に説示のとおり、プリーツ製品の1つとしてブラウスを含むものである。

<4>  そうすると、本件発明と甲第3号証に記載された発明とは、裁断された布地を縫製して所望の外形に成形した後、パーツを折込んだままプリーツ加工を全体的に施してなるブラウスの加工方法である点で一致しているというべきであり、審決の一致点の認定(甲第1号証6頁2行ないし6行)は、少なくともブラウスの限度で誤りはないと認められる。

<5>  したがって、原告主張の取消事由1は理由がない。

(4)  取消事由2について

<1>  甲第3号証に記載された発明では、その特許請求の範囲に記載のとおり、生地から袖と身頃を一体に裁断するものである。なお、甲第3号証に記載された生地を二つ折りにして裁断する実施例は、飽くまで最良の実施例、特に、縫製及び裁断の省力化に著しい効果が期待できるものを示すものにすぎないから、甲第3号証に記載された発明は、本件明細書の第1図(別紙1参照)のもののように、生地を二つ折りにすることなく、前身頃と袖の前半分を一体にしたものと、後身頃と袖の後ろ半分を一体にしたものを別々に裁断するものも含むものと認められる。

これに対し、前記(1)に説示の事実によれば、本件発明が「パーツに裁断」するのは、「所望の外形」を得るためであるから、所望の外形との関係上裁断が不要な箇所まで裁断することを要件とするものではなく、本件発明の「パーツに裁断」は、その実施例に示されている前身頃と袖の前半分を一体に裁断し、後身頃と袖の後ろ半分を一体に裁断するもの(Tシャツの実施例)や、1枚のスカート地を扇形に裁断するもの(スカートの実施例)はもちろん、甲第3号証に記載の実施例に示された1枚の生地を二つ折りにして身頃と袖を1つのパーツとして裁断するものも含むと認められる。

そうすると、「甲第3号証に記載された袖と身頃を一体に裁断することもまた本件発明でいう「パーツに裁断し」の概念に含まれるものとするのが相当であり、これを縫製により所望の外形に成形している点で両者に実質的な差異はない」との審決の判断に誤りはない。

<2>  原告は、本件明細書に「縫製上の制約を受けないため、自由なデザインが可能となる」と記載されていること等を理由に、袖と身頃を一体に裁断することは、本件発明においては必須の要件ではなく、逆に有害ですらあると主張するが、前記(1)に説示のとおり、本件明細書中の縫製上の制約とは「プリーツ加工されて重ねられた折り目が、平坦な原形に戻ろうとする復元性を持つため、折り目を押えつつ縫製しなければならず、縫製が迅速に行なえない。また、布地の重なった折り目を縫製するため、同時に縫製される布地が多くならざるを得ず、ミシンによる縫製が困難となる。そして、このような縫製上の制約から、デザインも制限される」ことを意味するものであるから、上記「縫製上の制約を受けないため、自由なデザインが可能となる」との記載を根拠に、本件発明でいう「パーツに裁断し」が甲第3号証に記載された発明の「袖と身頃を一体に裁断し」を含まないものと解することはできず、他に本件明細書に原告の主張を裏付けるに足りる記載を見出せないから、この点の原告の主張は理由がない。

<3>  したがって、原告主張の取消事由2は理由がない。

3  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙1

<省略>

別紙2

<省略>

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